マツタケの「シロ」
−北海道のシロを本州アカマツ林のシロと比べてみました−

利用部 微生物グループ 宜寿次盛生



 北海道のマツタケ


 マツタケは,本州では主としてアカマツの林に発生します。これは,マツタケの菌糸がアカマツの細根と「菌根(きんこん)」と呼ばれる共生体を形成して,養分等をやりとりしているからです。アカマツは,マツ科マツ属の常緑針葉樹で,本州・四国・九州・朝鮮半島・中国東北部などに分布します。また,明るい場所を好む陽樹で,貧栄養な土地にも耐えることができますが,安定した極相林の中では子孫を残すことができない典型的な先駆植物です。アカマツは北海道にも植林されており,道南では天然林化しているものもありますが,マツタケの発生は確認されていません。
 ところが,北海道の森林にもマツタケが発生します。北海道のマツタケは,ハイマツ(マツ科マツ属)林1)やアカエゾマツ(マツ科トウヒ属)林1),トドマツ(マツ科モミ属)林2)に発生することが分かっています。

 マツタケのシロ


 日本では,昔からマツタケは高価な食材として扱われてきました1)。明治から昭和には西日本(特に近畿,中国,四国地方)でマツタケの生産量が多く,西日本の人々になじみが深かったため,マツタケの研究も西日本の大学や公設試験場などが中心となって進められてきました。
 マツタケが発生する場所は古くから「シロ」と呼ばれていました1)。マツタケが発生した地表をはいでみると土壌中のマツタケの菌糸が白く見えるので「白」,きのこの城という意味で「城」,苗代のように場所を指す「代」などの文字を当てるそうです。現在では,菌類が野外で作る菌糸の集団(コロニー)とそこにできる微生物社会を示す用語として「シロ」が使われています1)。その「シロ」とは具体的にどういうものなのでしょうか?そして,本州アカマツ林のシロと北海道の森林のシロは違うのでしょうか?これまでの研究報告をもとに比較してみました。

 菌輪とシロ


 マツタケが発生した場所に目印のピンを立てて,毎年観察を続けると,マツタケの発生する場所がほぼ同心円状に広がっていく様子が分かります(図1)。これをマツタケの「菌輪」と呼びます。また,土壌表面の腐植層などを掻き取ると,マツタケが発生した地点(菌輪)より少し外側に「シロ」の先端が観察されます。このように,アカマツ林におけるマツタケのシロは,同心円状に毎年拡大して,その外周のやや内側に子実体(きのこ)が発生するのです。
 北海道では,1987〜2000年にトドマツ天然林においてマツタケ発生状況が調査されました2)。その結果,北海道のトドマツ林においてもアカマツ林と同様にマツタケは菌輪をつくり,シロが同心円状に広がっていくことが確認されました。
 このような菌輪やシロの広がりを調査したデータからシロの成長速度について,本州のアカマツ林と北海道のトドマツ林を比較してみます。アカマツ林(広島県)のシロを20年以上にわたって調査した結果,シロの直径成長量は各シロで一定であり,毎年約20cmずつ拡大したことが分かりました3)
  一方,トドマツ林で12年間調査したデータから,シロの年間成長量は平均約10cmで,本州アカマツ林の半分ほどだということが分かりました2)。アカマツ林に比べトドマツ林のシロあたりの子実体発生量が少ない2)のは,シロの成長量の違いがその原因のひとつと考えられています。

 シロを掘ってみる


 図1のように「シロ」の中心から外周に向かって半径方向に土壌を掘ると,シロの断面構造が観察できます1)図2)。
 一般的にマツタケの発生するアカマツ林の林床は,落葉や腐植のたまったA0層や有機物に富んだ黒褐色のA層が少なく,両層を合わせても数cm程度の薄さです。その下には有機物が少ない鉱物質のB層があり,その土壌にマツタケのシロが形成されます。図2のようにシロの断面は,肉眼で観察していくつかの層に分けることができます(この場合はの7層)。シロ先端部(図の左側)の層は「活性菌根帯」と呼ばれ,白色が強く,若い菌根が多く,次の年に子実体を発生させる層です。子実体が発生した直下の層は,マツタケの菌糸が衰弱し,粉体になり,菌根がしおれて糸状になります。層からシロ中心部へ向かう部分は,前年までに子実体を発生するのに使われた層です。層は「崩壊菌根帯」あるいは「イヤ地」と呼ばれ,マツタケの菌糸はほとんど無くなり,他の微生物やアカマツの細根など植物もほとんど見られません。層ではイヤ地が消えて,他の微生物や植物が見られるようになります。
 北海道のハイマツ林やアカエゾマツ林のシロも1966年に掘られて調査されており1),アカマツ林とほぼ同様の構造だということが分かっています。
 活性菌根帯の大きさは季節によって変動しますが,アカマツ林では,図2から活性菌根帯の最深部が約25cm,広島県3)の年間成長量から幅は約20cmと考えられます。ところで,トドマツ林のシロでは,アカマツ林のシロに比べて活性菌根帯の容積が大きいと報告されています2)(事例では,幅32cm,最深部38cm)。このことからトドマツ林のシロ(活性菌根帯)は,アカマツ林に比べて深い部分へと広がるため,シロの年間成長量が本州アカマツ林の半分ほどになると考えられます。

参考文献
1)小川 真:“マツタケの生物学”,築地書館,pp.1-326(1978).
2)村田義一ら:北海道林業試験場研究報告,第38号,1-22(2001).
3)川上嘉章:広島県林業試験場研究報告,第28号,49-54(1994).

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