人工栽培のナラタケが未(いま)だ食べられないのはなぜだろう?
〜ナラタケ栽培の現状と課題〜

きのこ部 品種開発科 宜寿次盛生


 ナラタケは栽培できるようになったが・・・


 林産試験場ではナラタケの人工栽培技術を開発しました。しかし,スーパーマーケットなどの小売店に並ぶきのこの中に栽培されたナラタケは見あたりません。実は,まだナラタケの人工栽培を行なう生産者がいないのです。その理由と課題を考えてみました。

 ナラタケのいろいろな横顔


(1)ナラタケは食用きのこ
 ナラタケは,北海道では「ボリボリ」と呼ばれ,きのこ狩りなどで人気の高いきのこです。歯切れが良くまたダシが出ておいしいきのこである反面,食べ過ぎると腹痛や下痢などを起こすことがあります。

(2)ナラタケは樹木病原菌
 また,ナラタケは樹木の根から感染して枯らす「ならたけ病」を引き起こす菌としても知られています。

(3)ナラタケの謎
 ところで昔から,ナラタケは発生する時期や形態が違うなど性質が多様であることが知られていたのですが,分類学的にはナラタケ1種だと考えられていました。1970年代後半に,交配ができるか否かでナラタケの種を分けられることが明らかになり,現在,世界では30〜40のナラタケ種が,日本には約10種が存在することが分かっています(表1)。このような交配可能なグループのまとまりを「生物学的種」と呼びます。明らかになった生物学的種にはそれぞれ種名(学名)が与えられ,それに伴って和名も提案され,その一つがナラタケ(学名:Armillaria mellea)になりました。それで,紛らわしいためここでは,全ての生物学的種をまとめた概念として,「ボリボリ」と呼ぶことにします(表1)。

 ボリボリの生物学的種とならたけ病の関係については十分に明らかになってはいませんが,A. ostoyae(和名:オニナラタケ,または,ツバナラタケ)は針葉樹に対して病原性が強く,A. mellea(ナラタケ)は広葉樹に病原性が強いと考えられています(表1参照)。さらに,ボリボリの生物学的種と食毒および食味の良否については,まだ研究がほとんど行われていない状況で,今後の取り組みが必要です。

 ボリボリの人工栽培


(1)ツバナラタケの菌床栽培
 林産試験場では,菌床栽培で子実体が安定して発生するボリボリ2菌株を選抜しました(写真1)。交配試験の結果,2菌株ともツバナラタケであることが分かりました。ツバナラタケは,前述のように針葉樹に対して病原性が強いと考えられているため,栽培後でも菌が生きている廃菌床を適切に管理する必要があります。そこで林産試験場では,廃菌床を殺菌し樹木病原性のないヒラタケなど他のきのこの培地材料に再利用する方法を開発しました。また,廃菌床を密閉容器に入れ堆肥化し,発酵熱を45℃以上に上昇させることでツバナラタケ菌を死滅させることができることも確認しました。

 そのほかのボリボリでは,A. gallica(ワタゲナラタケ,または,ヤワナラタケ)や ナラタケおよび A. tabescens(ナラタケモドキ)が大麦−おが粉培地で子実体を形成した例があります。しかし,安定した子実体発生の検討は行われていません。

(2)ボリボリの原木栽培(特開 2001-314123)
 ボリボリを感染させた原木を土中に埋設・管理することで子実体を発生させることや,未感染の原木にボリボリ感染原木を隣接して配置することで,ボリボリを感染させ,増殖させることができます(写真2)。原木栽培に用いたボリボリは,ツバナラタケやナラタケではないことを確認しています(写真3)が,生物学的種名はまだ明らかになっていません。

写真2写真3

 ボリボリとならたけ病


 ボリボリの生物学的種とならたけ病の関係を明らかにする目的で,苗木の根にボリボリを接種後,経過を観察して病原性の強弱を評価しようという試みが行われています。樹種にはアカマツやヒノキ,ボリボリはナラタケやツバナラタケなどが用いられていますが,実施例が少なく,同じツバナラタケ種でも菌株(系統)によって結果が異なるなど,まだ確立された手法とは言えません。林産試験場でもカラマツ苗やトドマツ苗を用いて試験を行いましたが,残念ながら明らかな結果は得られていません。

 ならたけ病については,「別の原因で木が弱ったときや,枯れたときに真っ先にボリボリが木の中に侵入してくるため枯らした原因と勘違いされている」という考え方もあり,まだ全容は分かっていません。

 ボリボリの実生産に向けて


 現在,安定して菌床栽培できるボリボリはツバナラタケですが,先述のように針葉樹に対して強病原性と考えられているため,菌の拡散を抑えるために栽培後の廃菌床の管理が必要です。林産試験場で提案している「培地材料としての再利用」や「堆肥化」について,実生産を行う施設でのシステムづくりやその検証を行う必要があります。また,ボリボリの原木栽培については,安定した発生方法が確立されていないため,より詳細な検討が必要です。

 最後に,生物学的種の中で「ツバナラタケはおいしいボリボリではない」という意見があります。このことから,ボリボリの実生産については,食味を第一の指標に,安定生産が可能となる新たなボリボリ菌株と栽培条件の開発を行うべきだと考えます。また現時点ではツバナラタケやナラタケは,ならたけ病の危険性が高いと考えられているため,対象から除外して開発を進めることが望ましいと考えています。

参考資料

1)太田祐子:森林防疫,48,47-55(1999).
2)宜寿次盛生:“キノコ栽培全科”,農文協,198-200(2001).
3)福田 清:特開2001-314123(2001). http://www8.ipdl.inpit.go.jp/Tokujitu/tjktk.ipdl


前のページへ|次のページへ