●特集『木質バイオエタノール』

木材から糖をつくる(木材糖化)

利用部 再生利用科 山崎 亨史



 はじめに


木材

 木材は,糖が結合してできたセルロースとヘミセルロースを含んでいます。その割合は樹種によって異なりますが,おおよそセルロースが50%,ヘミセルロースは針葉樹で20%,広葉樹で30%であり1),多くの糖を含んだ材料といえます。

 糖は,エタノールの原料になることに加え,生分解性プラスチックであるポリ乳酸などの化学製品の原料にもなることから,木材から糖を取り出す安価な方法があれば,脱化石燃料に向けた重要な技術といえます。

 ここでは木材の糖化技術を紹介します。


 セルロースとヘミセルロース


 木材の半分を占めるセルロースは,グルコース(ブドウ糖)が直線状に結合したものです。このセルロースを取り出し,加水分解することで単糖化されたグルコースを得ることができます。このことを木材糖化と呼んでいます。しかし実際には,セルロースの多くはそれら同士が水素結合という比較的強い結合により束になって結晶化しています2)。さらに,その周りをリグニンが取り囲んだリグノセルロースという形で存在していて,糖として利用するには,リグニンが障害となっています。

トウモロコシ

 一方,ヘミセルロースは,セルロースとリグニンの間に不均一に存在し,セルロースと水素結合,リグニンとは化学結合しています2)。リグニンなどと結合しているため,水には溶け出しませんが,セルロースと異なり,希アルカリなどにより比較的容易に抽出することができます。ヘミセルロースは軽度の加水分解でオリゴ糖や単糖に分解できます。ヘミセルロースに含まれる糖の種類は樹種によって異なり,一般的には,広葉樹は針葉樹より5炭糖(炭素元素を5個持つ糖,ペントース)が多くなっています。ヘミセルロースから得られるキシロース(5炭糖)はキシリトールの原料にもなりますが,木材からヘミセルロースを抽出して利用するには付加価値が高くなければ経済的に成り立たず3),キシリトールも現在はコーンコブ(トウモロコシの芯)などからつくられています。


 北海道法


 50年近く前,北海道で,濃硫酸を使用して木材から主に結晶グルコースを生産するプロジェクトが存在しました4)。その研究開発には主に林産試験場の前身である北海道立林業指導所が当たり,外部委託による研究を含め濃硫酸による木材糖化法が開発されました。この技術は世界的にも名の通った「北海道法(Hokkaido process5))」と呼ばれています。この方法ではまず,チップを蒸煮することで,含まれるヘミセルロースをプラスチック原料になるフルフラールとして取り除いた後,濃硫酸を加えセルロースを糖化します(表1)。糖化したものから,固体のリグニンを取り除き,得られた液体をイオン交換膜によって硫酸と糖液に分離するという方法です。

表1 濃硫酸による木材糖化法


 この技術を実用化するため,北海道が出資した(株)北海道木材化学が工場を建設し,操業を開始しました。しかし,様々なトラブルが発生し,2 年足らずで工場は閉鎖されてしまいました。

 この後,砂糖(ショ糖)の値段が下がったこともあり,林産試験場では木材糖化について,最近までほとんど検討されてきませんでした。


 木質飼料


牛

 一方,多糖類であるセルロースの利用法として,1985年ごろ,木材から牛の粗飼料をつくる研究が行われていました6)。牛が主として食べている牧草も,木材と同じリグノセルロースです。しかし,木材の場合,木化が進むことでリグニンが沈着し,硬く,そして分解されにくくなっています。このままでは,体内で糖に分解できないため,高温高圧による蒸煮処理,あるいは爆砕することで,リグニンの結合を壊してやります。これにより,セルロースの分解酵素,セルラーゼが働けるようになり,餌として利用できるようになります。このとき用いられていたのはシラカンバなどの広葉樹です。針葉樹はリグニンが多いためか,広葉樹より酵素分解が進まなかったようです。


 木材糖化


 木材糖化とは,セルロースの糖同士の結合に水分子H2O を反応させて一方にH,もう一方にOH を加えることで,C6H11O6-(C6H10O5nがC6H12O6+C6H11O6-(C6H10O5n−1 となる,加水分解のことをいいます(図1)。なお,加水分解は端から起こるとは限りません。

図1 セルロースの加水分解によるグルコースの生成

図1 セルロースの加水分解によるグルコースの生成


 木材の糖化方法には,北海道法で用いた硫酸や塩酸などの酸を用いた酸加水分解,セルラーゼによる酵素糖化があります。また,最近は水を高温・高圧にした亜臨界水による水熱糖化の研究が盛んに行われています。

 酸加水分解は,前述の酸が用いられることが多いのですが,他に硝酸,リン酸などの無機酸や,ギ酸,トリフルオロ酢酸などの有機酸なども実験的に用いられることがあります6)。この酸加水分解にも濃酸法と希酸法がありますが,これらは異なった反応であるため,酸濃度のほかに温度や時間も異なっています。なお,これらの酸は触媒として働いており,酸自体の変性はありません。

 酵素糖化は酵素によって加水分解を行う方法ですが,飼料のところでも述べたように,木材そのままでは酵素がセルロースを取り込むことができないため,前処理が必要になります。前処理の方法としては前述の爆砕や蒸煮処理,微粉砕,パルプ化などの脱リグニンが考えられます。

 水熱糖化は,反応性の高くなった亜臨界水により加水分解を引き起こして糖を得る方法です。しかし,反応の起こる条件が続くと加水分解で生成した糖も,熱分解してしまうため,特定成分を回収する方法が課題となっています7)

 このような方法がある中で,国内ではエタノール生産に向け,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により(社)アルコール協会らが濃硫酸法を検討しています8)。また,大阪府堺市でバイオエタノールジャパン関西(株)が建設廃材から希硫酸法によるエタノール生産プラントの操業を始めています9)。岡山県真庭市では,バイオマスタウン構想の一部として,木材工業の廃木材や林地残材から,希硫酸や酵素などによって糖化した後,エタノール生産を生産するプロジェクトを立ち上げています10)


 林産試験場の取り組み


 現在,林産試験場では,北海道法の新たな展開として,まずはNEDO一段法7)を参考に濃硫酸法による廃木材の木材糖化技術を検討しています。濃硫酸法を検討している理由は,希硫酸法に比べ比較的低い温度条件であることや,硫酸を回収して再利用することなどが優位に働くと考えるからです。

 一方,原料は建設廃木材,特にCCA(クロム・銅・ヒ素系防腐剤)処理木材など木材以外の成分を含むものを検討しています。これらは廃棄物として処理料金をもらうことで,デンプンに比べコスト高となる糖化の埋め合わせができると考えられます。

 表1 に濃硫酸法の流れを示しています。北海道法などの従来の濃硫酸加水分解法は,主として,木材からヘミセルロースを取り除く前加水分解工程,セルロースの結晶をくずして硫酸に溶かし出す主加水分解工程,溶け出たセルロースを単糖化させる後加水分解工程からなります。一方,NEDO一段法は,前加水分解工程を省略し,ヘミセルロースをセルロースと一緒に糖化させます。これは,北海道法の主製品が結晶グルコースであるのに対し,NEDO一段法はエタノールであり,ヘミセルロースに含まれる5炭糖もエタノールに変換できる技術が開発されたことによります。

 濃硫酸法では,硫酸を回収し再利用することがコストに影響してきます。使われる硫酸は,主加水分解工程で濃硫酸として加えられ,次の後加水分解工程で水が加えられることで硫酸の濃度が薄まることから,再利用するためには回収した硫酸を濃縮しなければなりません。その際,水分を蒸発させるためエネルギーを要します。このことから,コストを抑えるためには,いかに少ない硫酸で糖化させるかが重要になります。

 写真1は,木粉重量に対し,100%硫酸の重量に換算して3倍となる量の75%硫酸を加えて40℃で撹拌したものです。なお,黒っぽく見えますが,これはリグニンが硫酸と反応した色で,硫酸に溶け出たセルロースやヘミセルロースは,水を加え,ろ過することで透明な液として得られます。

写真1 濃硫酸による主加水分解

写真1 濃硫酸による主加水分解


 実用化に向けて要求される硫酸の量は木粉の重量とほぼ同じか1.5倍程度です。しかし,硫酸の密度は木材の4倍,すなわち,体積では木材の4分の1しかありません。さらに,木粉となるとより嵩が増すため,重量比が同じでも体積には大きな差があり,硫酸を木粉全体にいきわたらせるのは大変です。

 また,硫酸による反応は,木粉表面からセルロースがジェル状に溶けでて表面を覆って硫酸の浸透を妨げ,さらに,溶け出たセルロースが液の粘度を上げるなどにより,少ない硫酸量で処理するのは困難です。このため,1.5倍以下の硫酸で糖化を行うには,ニーダーと呼ばれる強い力で撹拌する混合装置が必要となります。

 今回用いたCCA処理木材は,無処理の木材と同じように糖化が可能でした11)。このとき,CCA成分は,ほとんどが硫酸に溶出しており,実用化のためには硫酸と糖液の分離のほかに,CCA 成分の分離も必要と考えられます。

 また,接着剤を含む合板についても同様に糖化が可能でした。接着剤については,一部が溶出するとともに,硫酸の濃度が下がったときに,溶出したものが析出してくるなどの現象も見られました。


 おわりに


 バイオエタノールの生産に向け,糖の需要が高まり,砂糖や飼料などの価格が上昇しつつあります。これを解消するには,リグノセルロースから糖を得る方法を確立することです。しかし,糖作物やデンプンの糖化よりも技術的に難しく,現状ではコスト高となると考えられます。

 濃硫酸法による木材糖化の歴史は古いのですが,実用化のためには,硫酸の量,糖と硫酸の分離など,コストダウンに向けていくつもの課題が残されています。

 一方,建設廃木材の場合,廃棄物処理料を徴収できるならば,原料の段階でコストを下げられます。しかしながら,建設物に用いられていた木材にはその性能を高める様々な処理がなされていることも少なくなく,それらが糖化や発酵を妨げることも考えられます。今回,CCA処理木材と合板を対象に濃硫酸法による糖化を行ったところ,糖化には大きな影響がみられませんでしたが,薬剤が硫酸・糖液に溶け出ていることが分かりました。溶け出たものが,糖と硫酸の分離を妨げたり,糖液に入り込み発酵や排水に影響することも考えられます。

 今後は,濃硫酸法のコストダウン手法に加え,これらの処理薬剤の分離方法についても検討していく予定です。


 参考資料


1)川瀬清:新版林産学概論,北海道大学図書刊行会(1982)
2)福島和彦ほか5 名編:木質の形成−バイオマス科学への招待,海青社(2003)
3)飯塚尭介監修:ウッドケミカルスの最新技術,シーエムシー(2000)
4)林産試験場ホームページ:http://www.fpri.hro.or.jp/yomimono/biomass/ingredient/touka.html
5)H.F.J.Wenzl:The Chemical Technology ofWood,Academic Press(1970)
6)遠藤展:林産試だより,1986 年5 月号
7)日本エネルギー学会編:バイオマス用語事典,オーム社(2006)
8)NEDO:バイオマスエネルギー高効率転換技術開発/セルロース系バイオマスを原料とする新規なエタノール醗酵技術等により燃料用エタノールを製造する技術の開発 平成13 〜 17 年度成果報告書(2006)
9)バイオエタノールジャパン関西