●特集『木質バイオエタノール』

バイオマスからの液体燃料について

利用部 再生利用科 檜山 亮



 はじめに


 地球温暖化の原因のひとつである二酸化炭素排出削減のために,化石燃料からバイオマス資源由来の燃料への転換が求められており,バイオマス利用のための協力や研究開発競争が世界規模で行われています。2007年2月には東京で,世界のバイオマス利用,ビジネスおよび研究の動向に関する情報を交換するための会議「国際バイオフューエル会議2007(International Biofuel Conference 2007)」が開催されました。

 ここではその会議で情報提供のあった液体燃料に加え,その他の基礎研究段階の液体燃料についても紹介したいと思います。なお,バイオエタノールについては,次の記事「バイオエタノールとは」で詳しくご紹介します。


 1. 植物性油脂から作るバイオディーゼル燃料


天ぷら油

 バイオディーゼル燃料(Bio-Diesel Fuel,以下BDFと記載)は,ほぼ実用段階まで技術開発が進んでいます。使用済み天ぷら油の回収がニュースに取り上げられることも多いため,比較的なじみがあるバイオ液体燃料かもしれません。

 家庭や飲食店などで不要になった天ぷら油などの廃植物油は,ろ過をした後に若干の化学処理()をするだけでディーゼルエンジンに投入することができるようになります1)


図 植物性油脂からのBDF(脂肪酸メチルエステル)の合成の模式図

図 植物性油脂からのBDF(脂肪酸メチルエステル)の合成の模式図


 BDFは石油由来のディーゼル燃料よりも低温で粘性が強くなってしまう場合が多く,冬の北海道で使用する場合には原料の選別や製造段階で多少の工夫がいるようです。石油由来のディーゼル燃料にBDFを混入することにより燃焼効率が上がって,燃費の向上と排ガスの有害物が減少する効果があります。また排ガスからはかすかに天ぷらのような香りを感じる場合があります。

 BDFには他に,ストレート・ベジタブル・オイル(SVO)方式もあります。これは,その名のとおり植物油をそのままディーゼルエンジンに投入する方式で,天ぷらかすなどの不純物をろ過するだけで,グリセリンなどの副生成物を発生させずに作ることができます。ただし,低温での流動性が,先述した脂肪酸メチルエステルよりもさらに低いため,燃料タンクとエンジンルームにヒーターを備える必要があるようです2)

 日本国内における廃食用油脂の発生量は45〜57万tで,そのうち未回収で未利用の廃油は15〜27万tであり,これを変換すると30万kL程度のBDFを作ることができます1)。しかし,未回収廃油を完全に回収するのはなかなか難しいですし,仮に完全回収したとしても,国内のディーゼル燃料消費量は約4,000万kLなので,廃植物油由来のBDFで代替できる部分は1%未満に過ぎません。また,バイオマスニッポン総合戦略(農林水産省)で掲げる,2010年における輸送用バイオ燃料50万kLという当面の目標にも届きません。そこで油脂を採取することができる植物を育てる試みがなされています。菜の花を遊休農地で育てて(写真)ナタネ油を取ろうとする試みや,東南アジアでのアブラヤシ(パーム)プランテーション等がそれにあたります。国産のナタネ油の大幅な増産はコスト的に難しく,現状ではバイオ燃料50万kLを達成するためには東南アジアなどから油脂を輸入することになりそうです。

写真 菜の花畑(滝川市にて撮影)

写真 菜の花畑(滝川市にて撮影)


 ただし,アブラヤシから作ったBDFは低温で流動性を失いやすいため,北海道のような寒冷地では利用が難しいかもしれません。また,アブラヤシ等のプランテーションに関しては,食糧生産との競合や,森林生態系の大規模な破壊および住民の権利侵害などに気をつける必要があります3)

 このような背景から,筆者は農産物や外国の森林から採れる油脂ではなく,北海道の森林から油脂を採取することができないかと考えてみました。寒冷地の樹木から油を採取するとなると,クルミや松の実といった脂質の多い種実類(ナッツ類)が思い浮かびます。実際,食用のクルミは水分を除いた成分の約7割が脂質4)です。しかし,その採集や処理のコスト,資源量などを計算すると,とても燃料には使えそうにありません。


 2. 木質資源からつくる液体燃料


山林


 油脂からつくるBDFにも供給量に限界がありそうだ,ということで考えられるのは,北海道に豊富に存在する未利用木質資源をエネルギー資源として有効活用することです。間伐材や廃材の有効利用は,化石燃料由来の二酸化炭素削減になる上,健全な森を育てることやゴミの減量にもつながります。以下では,木質バイオマスをどのような液体燃料に変換することができるのか,また,できた液体燃料がどのような性質を持っているのかということについて紹介します。

 (1) 木材を熱処理して得るバイオオイル


 バイオマスを熱処理してできる油状物質をバイオオイルといいます。木質バイオマスから作ったものは木質バイオオイルとでも言えるでしょうか。木質バイオオイルの製法には大きく分けて二通りあって,無酸素状態で500℃に急激に温度上昇させる方法5)と,300℃,10MPa程度の高温高圧の水で処理する方法(水熱処理)6)です。木質バイオオイルの生成時にはガスと炭状物質も生成されますが,この副生物を燃焼させて熱を回収するとプロセスの熱効率が良くなります。

 木質バイオオイルは木材成分が熱分解してできた液体ですが,高分子成分を含むため粘度が高く,一部が熱で変性して酢酸などの有機酸を生成するため酸性(pH2〜3)を示します。バイオオイル化により,固体である木質バイオマスがスラリー状(泥状)となり,輸送性を向上させることができ,噴霧燃焼すると液体燃料として使用できるようになります。木質バイオオイルは様々な反応条件での製造が検討されていますが,まだ実用化にはいたっていないようです6)

 (2) 木材を熱分解してできたガスから作る液体燃料


 木材や草本に700〜1000℃前後の熱を加えると主に水素,一酸化炭素,二酸化炭素からなるガスが発生します。この水素と一酸化炭素を用いて,メタノール,DME(ジメチルエーテル)および炭化水素の液体燃料を作ることができます。

 (i) メタノール

 メタノールは銅と亜鉛を主体とした触媒を用いた加圧条件下で,一酸化炭素と水素,二酸化炭素と水素から次の式のような反応で合成されます6)

 CO+2H2→CH3OH+86.2kJ
 CO2+3H2→CH3OH+H2O+87.4kJ

 現在は天然ガスから製造されていますが,木質バイオマスをガス化して得られた一酸化炭素と二酸化炭素および水素からも原理的には同様に作ることができます。

 メタノールは炭素数がエタノール(C2H5OH)よりもひとつ少ないアルコールで,エタノールとほとんど似たような性質を持っています。ただし,エタノールとは二つほど違いがあり,そのひとつは毒性です。体重60kgの人が25gのメタノールを摂取すると死亡する危険性があり,また少量の摂取でも失明の危険があります。

 もうひとつは無水物ができることです。エタノールではいくら精製しても99.6%程度の純度までしか精製できずに0.4%程度含水してしまうのに対して,100%の無水物を作ることができます。

 メタノール100%車は排ガスの低公害性が評価され,日本でも関東を中心に200台余りが走っています。またアメリカなどを中心に行われるチャンプカーというF1に似た自動車レースでは,メタノールを燃料にしてレースが行われています。

 (ii) DME(ジメチルエーテル)

 エーテルというのは炭化水素と炭化水素が酸素により結合したもので,下の式のように一酸化炭素と水素,または2分子のメタノールの脱水反応から作ることができます6)

 3CO+3H2→CH3OCH3+CO2
 2CH3OH→CH3OCH3+H2O

 ジメチルエーテルは常温常圧下では気体ですが,比較的容易に液化することができるので液化石油ガスのように扱うことができます。液化石油ガスは日本のタクシーの95%程度が採用している燃料です。排ガスがメタノールと同等かそれ以上にクリーンなため,実用化も期待されており,大量生産のための技術開発が行われている段階です。

 バイオマスを原料とした生産ではありませんが,北海道白糠町においてDME実証プラントが平成18年まで稼動し,天然ガスから生成した一酸化炭素と水素を合成して効率よくDMEを生産することが可能であるという実証データが得られています。

 (iii) 炭化水素

 バイオマス由来のガスを合成してガソリンや軽油を作る試みです。次式に示す一酸化炭素と水素から炭化水素を合成する反応は1923年にドイツの研究者フィッシャーとトロプシュらによって報告されたもので,FT合成反応と呼ばれます6)。

 nCO+2nH2→(CH2)n+nH2O

 生成した炭化水素の内,nが5〜11のものがガソリン,12〜22のものが灯油と軽油となります。

 石炭や天然ガスを原料とした大規模なFT合成による液体燃料製造でも,まだ石油を精製する場合のコストを下回ることができていません。しかもバイオマス由来では,原料の収集コストを考慮すると石炭や天然ガスより小規模になりがちなので,コスト面でさらに不利となります。効率良く合成を進める触媒の開発などが必要となっています。

 (3)ガソリンにもディーゼル燃料にも混ぜられるブタノール


ガソリンスタンド

 ブタノール(C4H9OH)はアルコールの一種で,エタノール(C2H5OH)より炭素数が多く,親水性が低いためガソリンとの相性が良いことから,現行のガソリンエンジンを改造することなく任意の割合で混合することができます。そのため,エタノールよりも有望なガソリン代替燃料と期待を寄せる専門家も増えています7)。また,ブタノールは前述した植物性油脂由来のBDFに混ぜて,着火性の改善および黒煙排出抑制の効果を得ることができます。

 ブタノールは現在石油から製造されていますが,糖の微生物による発酵からも得ることができます。この発酵はアセトン・ブタノール発酵と呼ばれ,微生物の種類によって生成物の割合は少し変わりますが,代表的な化学式は

 95C6H12O6(グルコース)→60C4H9OH+30CH3COCH3+10C2H5OH+220CO2+120H2+30H2O

となっていて,グルコースからの重量収率で26%のブタノール,10.5%のアセトン,2.7%のエタノールを得ることができます6)

 日本でも戦中戦後の石油不足の時代に研究開発および生産が盛んに行われていましたが,石油化学が隆盛する1960年代頃に姿を消しました。

 現在,生物工学の発展とバイオマス燃料の需要の高まりから,このアセトン・ブタノール発酵が見直されており,微生物研究の競争が激化し始めています。

 ブタノールは,エタノールと原料が同じですし,製造設備も大きく異なるわけではないので,エタノール製造設備をほんの少し改造するだけでブタノール生産が可能になります。もしかすると,エタノール向けに開発されている木材糖化液もブタノールの生産に使用されることになるかもしれません。


 おわりに


 現在のバイオマス液体燃料に関する技術開発動向をまとめると,バイオエタノールやバイオディーゼル燃料の実用化に向けて技術開発が進められている一方で,メタノールやブタノールなどでも画期的な成果を目指して基礎研究が進められている,といったところです。

 現在の文明は燃料も化学材料も石油に大きく依存していますが,いつまでも現在と同じように石油を使用していくのは難しいので,少しずつ石油からバイオマスへとシフトして行く必要があります。そのためにはバイオマスを液体燃料に変換する技術の開発をさらに進展させていくことが不可欠となると思われます。


 参考資料


1) 坂 志朗:わが国における木質エネルギーの現状と将来展望, 新エネルギー導入促進セミナー「木質資源の有効利用と導入普及の知恵」配布試料, 2006年9月18日
 http://www.nedo.go.jp/nedohokkaido/event/photo/180921baio/01saka.pdf
2) “天ぷら油→ディーゼル燃料 北海道オリンピア,ろ過装置開発 車両改造も請負”, 北海道新聞朝刊, 2007年5月8日
3) NPO法人バイオマス産業ネットワーク:バイオマス白書2007ダイジェスト版, NPO法人バイオマス産業ネットワーク(2007)
4) 文部科学省:五訂増補日本食品標準成分表, 第2章五訂増補日本食品標準成分表(本表), 5. 種実類
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802/002/005.pdf
5) 本間千晶:林産試だより2001年3月号, 2-3
6) 日本エネルギー学会編:”バイオマスハンドブック”,オーム社(2002)
7) 湯川英明:RITE Bioprocess, International Biofuel Conference2007 配布資料, 2007年2月2日



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